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2011年02月12日

PHASE1-4 セカンダリ・コンセプトデザイン

空軍作戦部長が言い出した意見は、衝撃的だった。
空軍としては空中迎撃能力を持つ事は、亜音速領域に限定したものとはいえ、近い将来必要になると考えている。なぜなら、麻薬密輸業者が小型輸送機や軽飛行機による空中投下を目論んでいるという情報があるからだ。低空侵入して来る飛行機は、航空管制用地上レーダー・サイトでは追跡し切れないため、追跡と投下地点確認のための飛行機が最低限必要であり、理想を云えば、密輸航空機を撃墜する能力を有する戦闘用航空機が欲しい。
噂に聞くアメリカの密輸業者の手口だ。確かにこの国は豊かだが、そうまでして、この国に麻薬禍を持ち込みたがっている輩がいるという事実は、ショックだった。
作戦部長は続けた。空軍として欲しい戦闘機は、全天候とは云わぬが、夜間計器飛行中の目標を迎撃する能力を持ち、小型軽飛行機の運動性に追随可能な機動性と、中型双発機を撃墜可能な武装を持つ、軽戦闘機である。提案されている3案は、前方監視赤外線装置(FLIR)を装備する事で、総てその条件を満たしている様に思われるが、第1案は高性能にすぎる様だ。密輸業者達がジェット機を繰り出して来るとは考え難いので、超音速性能は必要無い。速度性能を少々犠牲にしてでも、機動性を追求して欲しい。
地上からの国境越えでの密輸を阻止する手段は、FLIR(前方監視赤外線装置)やSLR(側方監視レーダー)を装備した偵察攻撃機を、双発軽飛行機改造の物だが、空軍は保有している。低空侵入機を捕捉するための早期警戒機も、F-16やシーハリアーのレーダー・システムを中型双発機に搭載した物が、アメリカやイギリスで発表されているから、人員確保さえ目途がつけば、すぐ導入可能だ。当面は、現在保有しているCOIN機(局地戦用偵察攻撃機)とその早期警戒機で、密輸の阻止は可能であるという。しかし、こちらの対抗手段に対して、敵がさらに対抗して来る事は充分予想される。2、3年中には、先に述べた様な戦闘機が必要になるだろう。
国王がゆっくりと口を開かれた。では、空軍としては戦闘機の開発は歓迎するのか?
3人の軍人達は大きく頷いた。
首相も頷く。ただし、やはり超音速機は不要だと言った。又、長い航続性能は、狭い国土とは云え、国境地帯での長いパトロール飛行のためには、欲しい性能かも知れない。だが、周辺諸国との関係を考えると、侵攻能力と誤解されかねない性能を持つ事は、極力避けたい。その上で、超音速性能は、完全に不要である。
国王は表情を動かさなかった。技術開発計画ということでは、残念な方向なのだが、臣下の意見には素直に耳を傾けようという姿勢を、貫くつもりなのだ。
マキルは下を向いて唇をひき結んでいる。
そして、意を決した光る目を上げ、言った。
提案者としては非常に残念だが、私は我が国空軍が必要としてくれる飛行機を作りたい。

国王は大きく頷いた。
これで決まりだ。マキルの第1案は廃案となった。

結局、1時間半程で会議は散会した。結論として、アランの第2案と私の第3案は甲乙つけがたいとのことで、折衷案を最終開発案として提出する事になった。
期限は、またも10日後。これは、我々の人件費の間接的スポンサーである、大蔵大臣がつけた条件だった。あまり凝った事をしてもらいたくないというのが、彼の言い分なのである。特に、私の第3案が、コンセプトとしてはかなり斬新な発想を含んでいるので、開発費の高騰を呼び込みそうな要素をピックアップして報告してもらいたいと、注文をつけた。最終仕様決定会議で、それを検討したいというのだ。その報告書作成に、もう1日追加しても良い、というのが、彼が付けた緩和条件だった。
それでは11日後に、ということで、国王の承認を得て、私達はRATFに戻ったのである。

      *

工房に戻ると、もうマキルは気分を完全に切り換えていた。
早速、ネット端末にかじりついて情報検索にかかっていたのである。
私やアランは、輸入が簡単で性能にも信頼性にも整備性にも実績があるロールスロイス・オーフュースを搭載エンジンとして想定していたのだが、彼はアメリカのジェネラル・エレクトリック製J-85のピュア・ジェット・タイプやロールスロイス・ヴァイパーの輸入が可能かも確認しておくべきだと言い出したのだ。なにしろ、オーフュースは使用実績が古いエンジンだ。このエンジンを搭載している機種は、どれもこれも生産終了して、20年以上経っている。今では入手困難になっている可能性もあるのである。
マキルが選定基準としたのは、やはりオーフュースの1400kgfの最大推力だった。それに、オーフュースよりエンジン取り付け寸法が小さいこと。私の第3案は、胴体の基本計画寸法がオーフュースを基準に決められているので、あまり大きな変動は望ましくないのだ。特に大きくなる方向は、胴体の空力抵抗を増加させ、パイロットの視界を狭める等、影響は大きい。
又、同じロールスロイス製で開発年次でもオーフュースとどっこいどっこいの古い基本設計のエンジンだが、ヴァイパーの方が、まだ搭載機種が各国で運用されているので、オーフュースより入手性が良いかも知れない、とも言う。事実、ヴァイパー搭載の高等練習機/軽攻撃機のエアルマッキMB326/339は、80年代の製品だが、あの時点でも7箇国で現用中の機体だ。英国政府の輸出許可さえとりつければ、容易に輸入可能である。
又、マキルは、搭載機器類の選定の内、機体重量と胴体寸法に大きな影響を与える、射出座席の購入機種選定も先に行なっておくべきだろうと言った。コクピットの空間設計と、コクピット周辺の胴体設計に大きく影響するのだから、確かに必要だ。射出空間の確保も必要だが、必要以上に大きく取って機体を大きくしたくない。また、射出座席の100キロ以下の質量も、馬鹿に出来ない。
それほど今度の開発機は小型なのである。アランの原案も私の原案も、自重2500キログラム以下、最大離陸質量4000キログラム以下の、ナット/アジートと同程度の大きさの戦闘機なのだ。

この日の勤務時間の最後の3時間、折衷案の基本設計方針を検討したが、11日後に提出する2次設計案は、これが最終案になるつもりで、10日間をフルに使って、エンジン選定と、それに合わせた胴体設計からやり直す事にした。とにかく小型化にこだわろうという事に、全員の意見が一致したのだ。空軍作戦部長が言った「小型軽飛行機を追尾可能な機動性」を実現するには、徹底的な小型軽量化が必要だということだ。
設定条件は操縦室(コクピット)部での胴体幅を940ミリ以下にまとめる事とした。
コクピット内部のレイアウトの素案もまだなので、かなり余裕を持たせた数値設定にしておく必要があるのだが、さりとて1メートル以上もあるアメリカ製大型戦闘機は参考にならない。それに、940ミリで、マーチン・ベイカー社製射出座席のMk4やMk10が余裕で入る。Mk4は<アジート>に適用されているし、Mk10は、やはりコクピット部が小さくまとめられた超音速戦闘機である<ミラージュ>や<グリペン>に採用されている。
それに、胴体外形数値として、人間工学的に参考になるデータがあったのである。
参考にしたのは、旧日本陸軍戦闘機<飛燕>だ。この戦闘機も極力胴体を細く設計されていたが、設計目標値は840ミリだったというのだ。現代のジェット戦闘機のコクピット内では、サイドコンソールの容量が大戦中のレシプロ戦闘機とは比較にならないし、840ミリというのが、当時の日本人パイロットの体格から割り出されたものなので、現代の当地のパイロットの平均的体格での肩幅から割り出すより、小さかった可能性は高いだろうが、それでも30ミリ程度の差であろうと考えられたから、840に100ミリプラスしただけで、充分可能な数値だと考えたのだ。
確かに、ゆったり乗っていられるコクピット空間ではあるまい。が、計画機は、あくまで1飛行(ソーティ)を1時間程度の飛行時間と想定される局地戦闘機なのだ。訓練と馴れで、充分許容範囲内だと考えていた。
又、エンジンの選定でも、軽量大推力よりも、スロットル・レスポンスの素早さを重視するべきだろうと考えた。ジェットエンジン――と云うより、噴進式ガスタービン・エンジンでは、これは軸数が少ない方が良いことを、おおかた意味する。無論、燃料供給装置の能力も関係するが、基本的に空気取り入れ口(エア・インレット)が固定で、レシプロ・エンジンの様に可変式ではないガスタービンでは、回転の上下はそれ程素早くはないのだが、高圧用と低圧用に、圧縮機の軸が分離しているエンジンでは、エネルギー効率はこの方が良いのだが、スロットルの開閉に対する反応が特に鈍いのだ。そのため、戦闘機用のジェットエンジンでは、ピュア・ジェットでもターボファンでも、1軸式のエンジンが多いのである。
だが、その戦闘機用エンジンで、今時1500キロ級の推力のエンジンなど、練習機用として今でも使われている古い物を除けば、ほとんど無いのだ。相手国の国策で輸入が不可能な、IHI製のF3を除けば、70年代に開発されたフランスのラルザックが、最も新しい基本設計のエンジンなのではないか。
3人共、ヴァイパーでほとんど決まりだろうと考えながら、それでも一からエンジン選定作業をやる気になっていた。
サイズはやはり、オーフュースを基準にして、最大直径770ミリ以下、全長2200ミリ以下、乾燥質量400キロ以下の、最大推力1500キログラム以上出せるエンジンをピックアップすることにしたのである。
  

Posted by 壇那院 at 18:30Comments(0)軽戦闘機 ロア